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column

>>>前回より


ご存じでしょうが、版画などいくらでも複製できるモノを限定数生産し、その価値を高める方法がありアートの業界では"エディション"と呼ばれます。
ファッション業界でも限定品限定品と叫ばれる"限定商法"がありますが、しっかりエディションナンバーがついていないとそもそも成立していないと思うのですよね。それじゃなければ、大体のモノが有限なので、"限定品"と呼んで差し支えませんからね。
村上さんはアート畑のひとですから、その辺のブランディングはエキスパートですよね。
今回はとりわけ、400枚限定ですから、私は気持ち多すぎるのかもと思ったのですが、動いている人達のギャラを考えると100枚限定では手の届かない値段になっていたかもしれませんね。
400枚生産がぎりぎりペイできて、ラグジュアリーブランドのTシャツの価格で値段を抑えられるギリギリだったのかもしれません。
そもそもお金は十二分に持っているお二方ですから、Tシャツ売って懐に入るお金以上にそこから産まれ世界に拡散される"話題"の方が価値のある事でしょう。


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兎角言いましても、興味のない人にはやはりただの高価なTシャツです。
単なるコットンですからね。

しかし高価な絵画にしたって、そもそも紙、またはキャンバスの上の絵の具ですよ。
着脱可能なコットンの上にプリントされたものにもそれなりにポテンシャルがある事を認めなければなりません。

要は売り方次第なのですよね。モノは日用品にもアートにもなり得るわけです。

"モノは額に納められ飾られればアートになるのか、否か?"

と言うような、以前からされているようなことをここでももう一度議論していくことは止めたいのですが、(まぁ、昔からあるおもしろいトピックだとは思いますが、)日用品である衣料は刹那的であるからこそ美しいと私は思うのです。
本来の芸術は恒久的な美を目指していたと思いますから、そういったジレンマの中にあるファッションはおもしろいと言いますか、、
衣服に純粋な芸術的付加価値をどこまで許すことが出来るのか、という事は非常に難しい問題なのですよね。

職人が時間を掛け磨き上げた技術で作り上げた日用品をWork Of Artと評価していただく事は我々もうれしい限りなのですが、そこに永遠の美が無い限り、モナリザや、ダビデ像にはなりえないでしょう。もっと簡単に言いますと、芸術品だなんだと言われるような名のある職人が作ったスーツに100年後、200年後に100億円の価値がつく事はまず無いわけですね。(円の価値が崩壊してれば話は変わりますが、今でいう100億円の価値という意味で言っておりますよ。)
いくら私が、布というメディアを使った彫刻作品を作っていると意識したところで、実際に着るためにオーダーが入り、その一着もボロボロになり、またオーダーが入るから私も生活が出来る。
ファッションは刹那的であるが故に悲しくも我々は生活が出来ているのです。そしてその中で恒久的な美さにむかって制作活動しているのですね。
少なくとも私はそう心がけております。

しかし、その悲しさが美しさなのでしょう。それが労働者階級に生きる悲哀と美徳なのだと理解しております。

もちろん芸術家もまごう事なき労働者階級なのですけどね。


話が悲しくなってきましたが、こんな我々の作るスーツは£5000くらいするわけですね。

そもそもスーツを着ない人には理解できないでしょう。スーツを着る人でも使い捨てのスーツに£5000は正気の沙汰ではないと思うことでしょう。
メイフェアではムラカミさんの作品が45000円で買えるのに、我々のスーツ£5000もするわけです。
興味の無い人にはもちろんクソ高い代物ですが、その反面年間何十着も作る人がいるのも事実でして、そういう人達にとってはたいして高い買い物ではないのだと思います。
去年すべて貴重な生地で20着以上仕立てたお客さんもいましたね。(基本、我々コートメーカーは同じ顧客の上着を担当します。仕事を別のコートメーカーに振り分ければどうしても仕上がりがばらつきますからね。良い仕事をすれば、お客さんは戻って来ますし、その仕事はまた我々に返って来る寸法です。)

そのサーヴィスやユーザーエクスペリエンスももちろん込みですから
スーツ一着£5000、さぁ高い?安い?の話ではありません。

今のラグジュアリーブランドも吊しのスーツだけでそれ位するものもありますよね?
そう考えれば、俄然安いですよ。
電話一本で"プライベートジェット手配しておくから、ちょっと時間開いたら家でフィッティングしてもらいたい"と言えば現場まで行くのがサヴィルロウのカッターです。ユニクロのパタンナーさんはきっと受けてくれません。
信頼のカスタマーサポートですよ。

サヴィルロウに詳しい人やSRCにお付き合いしてくれている人は理解していただいていると思いますし、我々のスーツが高い安いで一喜一憂することはないと思いますが、難しいのは地元の友達が"スーツ作ってるんでしょ?それじゃ一着作ってよ〜。"
というパターンです。

オーダースーツが10万円前後だと理解している友達に我々のスーツがなぜ£5000以上するのかの説明を毎回しなければいけないのはこちらとしても心苦しいのです。
私が作ったモノを着たいと言ってくれることは嬉しいことなのですが。
しかしながら現実問題、プライベートで作ってる暇がないのでいくらプライベートの仕事の方が下職よりも割が良いとは言っても、一度もプライベートで仕事を取ったことはありません。
(絶対に受けませんし、深い意味もありませんが、白紙の小切手の準備がある方、DMお待ちしております。)

いくら積もうが手に入らないモノもあるでしょうし、いくら貴重なものでもただで手に入る場合もある。

£288だったムラカミアブローのTシャツは果たしてあなたには安く映ったでしょうか、それとも高く映ったでしょうか?