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column

最近、柄にもなく真面目に洋服についてお送りしております、お世話になっております、をさないです。

前回にジャケットの"点と線" に触れ、気づけばガン無視していたので、もう少しだけそのところに踏み込んでみましょう。きっとこのへんがジャケットを見る上で一番の肝になるかもしれません。

"点"という一次元の領域はテーラーの不可侵領域でございます。
簡単に申しますとカッターがカスタマーのメジャーメントをし、そこで得られる数字から割り出し平面上に点が打たれる訳です。
その点を下に"線"が引かれます。そしてカッティングされた生地がテーラーに渡ってきます。
我々は生地に描かれた線にマークスティッチをいれます(もうすでにこの時点からイギリス、イタリアのテーラーリングでは方法論に違いが生まれます。カッティングは鼻っから違うわけですが。)

マークスティッチはあくまで"マーク"でございます。マークされた線にすべてを任せてそのまま仕事は出来ません。
我々は3Dにしていく過程で何度もその線を描き直さなくてはならないのです。(原則といたしましては、その重要な点となっているマークを我々は変えられませんが、時に我々はマークスティッチを無視して最良の線を描きます。)
ウールという柔らかい生地を立体にするわけですから、初めにカッターが描いた線は作っていく工程で使えない線になってしまうのです。
あたえられた点から、カッターが初めに描いた線を頭に叩き込み(まぁ、それを参考に)、我々で何度も線を引き直すのです。ですので線というのはテーラーの領域(、っと言っておきましょう。もちろんカッターさんの線があってのものですし、すべての線が描き直さなくてはならないというものでもありません。)になります。
しかし縫い合わされたシームという線は100%我々の仕事ですので、やはり"線"というのはテーラーに依存してしまって仕方がないものだと思います。
完成されたジャケットのアウトライン("雰囲気"とも申しましょうか。)はもちろんカッターの創造によってある程度が決められますが、それも我々テーラーの技術次第では無様な物になってしまうのです。
特にビスポーク物は縫い代が多く取られ生地のエッジとエッジを合わせて縫えば良いというわけではないのも理由になるかもしれません

我々に来る仕事にはすべて仕上げる数字がノートされたチケットがついてきますので、もちろん、最終的にはその数字も照らし合わせることになります。(どうしても水と熱を使ってしまいますので一番初めのカッターが描いた線では数字通りにはなりません。数字通りになれば、幾分楽なのですが...)

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<バルカポケットの内側。後者は別のナポリ謹製のビスポークジャケットの物です。分かりますでしょうか?見えないところでは適当になってしまうというものです。その質で議論しようと思ったのなら、下の物は少々強度に難があるように思います。
まぁ、胸ポケットにはハンカチ程度しか入れることは無いにしても大雑把すぎます。
爪が引っかかればポケットバッグが取れてしまうレベルです。上のジャケットは問題のない作りです。

完全な余談ですが(得意の余談です。)以前、得意のポッドキャストを聞いていると、ある人が"ティーバック"と言い、ツッコミの人が"ティーパックな!"とツッコんでおりました。厳密にはティーバッグ(TEA BAG)です。アーメン。(たしかトータルテンボスの大村さんだったような。お間違いないように言っておきますが、私トータルさん大好きです。何を隠そう"ぬきさしリスナー"です。もっぱら聞き専ですが。>


話しを戻しましょう。未熟なテーラーの中には(偉そうなことは言えませんが、、)、立体がどうだ、人間の運動がどうだと言っては無邪気に水とアイロンで高級な生地をぐにゃぐにゃとボロ雑巾の用に扱っているようですが、水とアイロン、遊び道具ではありません。我々のライフラインです。
線がどれだけ大事か、そして生地の流れをしっかり把握した上で適切な方法でアイロンワークを行わないと線は狂いますし、生地の流れも壊れてしまいます。

そういった所をカッターは見ております。要は、それが質となるのです。

例えば、付け加えますと、我々テーラーの仕事をカッターが見るときは絶対にその袖付きを見ます。
特にその"ハング"を見る訳です。(まさかそれの良し悪しを判断するには皆様には少々難易度が高過ぎるかもしれません。職人の中ですら良くわかってない人もいるほどですから。)
そして、その時、絶対にシームも見ます。アームホールのシームは歪みやすく、そしてその歪みがそのまま、見た目に影響が出ますから重要なポイントです。(この線は我々が細心の注意をはらうラインでして、特に我々が書き直すところでもあります。ボディ側もスリーブ側も同様です。そのままでは全く入らないスリーブなんてのはざらにあります。それを綺麗に入れるのが我々の腕の見せどころでもあります。)

変な話がこれは曲線です。しかし局部局部は澱みのない直線で無ければなりません。
(たしか、Yoko Onoさんの作品でただの直線の絵があり、そこに"円の一部です"とか書かれたコンセプチャルな作品があったような、、、そんな感じです。)

こういったシームはミシンであれ手縫いであれ迷いがない線ほど質が高いものとなります。

ちょっと話が変わりますが、本当に絵がうまい人というのはもう一本の線が段違いで上手いものです。絵というのはその集合体なわけですから、レベルの高い作品は言わずもがなというお話です。(たしか、漫画家さんとかも初めはずっと、線を引く練習を延々とするのだとか、、、)

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<スリーブのハングを見るときはマネキンに掛けてもわからないものです。マネキンのために服は作られていないからです。言葉では分かりづらいでしょうが、こんな感じです。(結局分かりづらい写真ですが、普通に買うジャケットはこんなことする必要はありませんので、皆様には必要の無いテクニックかもしれません。寧ろ、こうように店の中でハングを確かめるのは失礼かもしれませんね。危険な技ですので、詳しい方法はここではさらしません。)
こうして、ハングとそのフロントピッチを確かめます。フロントピッチのお話は止めておきましょう。行き過ぎだと思います。(基本、スリーブのフロントラインがポケットマウスの中間点を通るくらいが目安です。何言っているかわからない人もいると思いますが、聞き流してください。)

ディンプルやドレープが出ている物はナポリでは良しとされますが、イギリス物では無しとされます。マニカカミーチャとして知られているものです。シャツの袖はギャザーが入っているものも当たり前ですから、"シャツのような袖"という皆様御存知のものですね。>

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<スリーブとショルダーシームの交差点。こういうのはサヴィルロウでは完全にアウトになってしまいます。これはマニカカミーチャとは何ら関係のない線の乱れです。(こういう線の乱れがディンプル、ドレープを生みますが、きっと質の高いマニカカミーチャは線の乱れから偶発的に生まれるものでは無いと思います。)

それでは全く歪みがない線の完璧なジャケットができるのか?といったら非常に難しいと思います。これらは柔らかい生地を扱った人間の作品ですから。しかしこのテーラーはこのレベルの歪みに一切気を払ってすらいないように見受けられます。ナポリがどうこうというより、これを作った職人が別段気にかけていないのでしょう。
職人もブランドも、そしてお客さんも別に気にしない。そして普通にビジネスが成り立ち、みなさん幸せにその日の夕食にありつける。どこに問題がありましょうか?
ただ、私がこれをサビルロウでやるとその日からご飯無しという事になってしまいかねないのです。ただただそういったことなのです。>

長くなってまいりましたね。ちょっと重たい回でした。

それではまた次回。